さくら


4月。それは新しい年度の始まりであり、出会いの季節である。
そして誰もをなんとなく幸せな気分にさせてくれる春を運んでくれる。


PiPiPiPiPiPiPiPi!!

「ん?電話だ。誰だ?」

ある晴れた日曜日の朝。いつも通り朝食を食べ終えて、食後のコーヒーを飲んでいたら携帯が鳴りだした。

携帯のサブディスプレイを見ると『佐伯比呂』の文字。

「比呂?どうした?」

比呂は俺の友達。同じ高校の同級生。入学式で出会って、それ以来つるんでる。
俺は廊下に出ながら通話のボタンを押した。

『おう。久しぶりだな、蓮。』

学校は既に春休みに入り、終了式以来比呂には会っていない。

「久しぶり。何?朝早くに?」

比呂はバイトが忙しいらしく、放課後も遊べないことのほうが多い。春休みはさぞ稼いでいることだろう。

『わりぃな。寝てたか?』

声に笑いを含ませながら聞いてくる。

「失礼だな。起きてたよ。今日はバイトは?」

『ん?今日は休みをもらったんだ。春子がさ、花見に行かねえかって。お前今日空いてる?』

春子は比呂の元カノだ。姉御肌のさっぱりした性格で、分かれた後も比呂と遊んだりしてるらしい。
そもそも二人は幼馴染だ。そして俺のクラスメイト。

「へぇ。いいな、それ。俺も行くよ。」

『誘ってんだよ、バカ。春子からの指示でな。』

笑いながら言う。暴言を吐くのはいつものことだ。

「分かってるよ。何時集合?」

俺もそれに慣れてずいぶん経つ。

『ええと、10時に駅前集合。いけるか?』

時計を見ると9時半を指していた。

「うん、大丈夫。」

大体いつも俺たちはそこで待ち合わせする。お互いの家の真ん中がちょうどその辺なのだ。
お互い、駅まで15分ぐらいだ。

『あ、一応上着着てきたほうがいいぜ。ちょっと外寒いから。』

「分かった。ありがとう。」

比呂は優しい。そうやっていつも気を使ってくれる。

『おう。じゃあまた後でな。』

「うん、また後で。」

電話を切って出かける支度をする。
言ってもすることなんてそんなにない。上着を出してきて、財布をポケットに入れて、携帯を持つ。以上。

「仁兄。出かけてくる。」

地下の書斎で仕事をしてる仁兄に声をかける。

「どこに〜?」

「比呂と瀬崎と花見に。」

うちでは出かける際は必ず声を掛け合うのがルールだ。誰もいなければメールで報告。

「帰宅は何時?」

「あ〜、やべ、聞いてない。」

帰宅時間に合わせて仁兄が夕食を作ってくれる。

「む〜、分かった。分かり次第連絡入れること。」

「ごめん、いるのはいると思うから。」

「なら、みんな連れてきたら?」

仁兄は料理を振舞うのが好きだ。

「いや、みんなの予定もわかんないし、そこまではいいよ。」

俺は自分の家に誰かを上げるのはあまり好きじゃない。
...瞬がいるからってのもある。

「そういや、瞬は?」

「瞬くんは今日は学校で講習があるって朝早くから出かけていったよ。」

だからこんなに静かだったのか。あいつがいるといつもやかましい。
仁兄は『賑やかでいいんじゃない?』とか平和なこと言うけど、相手をするのがほぼ俺なんだ。俺は疲れる。

「そか。とにかく行ってきます。」

「いってらっしゃい。なるべく早い目に連絡してね。」




家を出て、春の陽気な天気の中を散歩するように歩く。
俺はやっぱり春が一番好きだな。桜も大好きだし、何より空気が好きだ。

そんなことを思いながら、ぶらぶらと駅に向う。

「蓮くん!こっち!!」

駅前に着くと瀬崎が手を振って迎えてくれた。
それに手を振り返しながら、みんな来てることを確認した。

「ごめん、遅かった?」

間に合うように出たはずだが、結構ぼんやりしながら歩いていたので遅刻したかもしれない。
そう思って時計を見たら、9時55分だった。

「ううん、あたしたちが着くの早すぎただけだよ。」

にこにこしながら早川が言った。
早川もクラスメイト。瀬崎の親友。こうしてたまに四人で遊んだりする。
『早川美空』。瀬崎とは正反対のふんわりした雰囲気を持つ女の子らしい子だ。

「美空は優しいね〜。まっ、確かに五分前ではあるけどね。」

何故か、瀬崎がにやにやしながら言った。

「なんでよ!普通でしょ!?」

早川は顔を少し赤らめながら瀬崎の腕を軽く叩いている。

「はいはい。じゃあ全員揃ったし行くか。」

そんな二人の様子を見て、比呂が切り出した。
俺は比呂の横に並んで歩き始めた。

「どこに行くんだ?」

「ん〜、妙見さんに行こうかなと思ってた。でも階段きついって言い出しそうだな。」

妙見さんは近所にある神社だ。かなり山奥にあって、行くまでには長い石段を登らなくてはならない。
確かに女の子にはきついかも知れない。

「言わないわよ!」

聞こえていたらしく後ろから瀬崎が声をかけてきた。

「あ、でも美空はきついかもしんない。」

「え?大丈夫だよ〜?」

早川は心底不思議そうな声で言った。

「...まぁゆっくり行ってね。」

そういって瀬崎は早川から目を逸らした。
早川は運動音痴でちょっとばかし有名なのだ。それはここにいる三人はよくわかっている。
...本人を除いて。




2008/04/08
久しぶりに書きました。軽く一年ぶり。

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