茉莉花茶
ある日の昼下がり。
いつものように居間で本を読んでいた。
すると上で課題をしていたはずの瞬がいつのまにか俺の隣で眠っていた。
「…え、瞬?お前、なんでここにいるんだ?」
瞬の肩を揺らしながら尋ねると、寝ぼけているのか、それとも計算か、こいつは
いきなり俺を押し倒した。
「うわぁッ!!やめろ!…ッ瞬!!」
「ッ痛!…普通いきなり殴る?」
余りにも腹が立ったので、ぐーでおもいっきり殴ってやった。
「普通いきなり押し倒しマスか?」
「やだなぁ、寝ぼけたんだよ、きっと☆」
…絶対計算だ!
「ん?何?」
後ろに暗いものが漂う笑顔は、それはもう恐ろしかった。
「ナンデモアリマセン」
瞬は俺の心の中が見えてるんじゃないかと、たまに思う。
「はぁ〜、お前上で課題してたんじゃないのか?」
「うん、終わった」
「ふ〜ん。お茶入れるけど飲むか?」
瞬に関わると疲れる。
「うん。あ、ねぇ、これで入れて?」
見ると瞬は手に小さなパックを持っていた。
「これで蓮にお茶入れてもらおうと思って下りてきたんだった」
「なんで声かけなかったんだ?」
「……………」
「…なんだ、その顔は」
さも、びっくりしました、みたいな顔をした瞬に軽い苛立ちを覚える。
「なんでって、いつも本読んでる時に声かけたらすごい怒るじゃないか!」
「…そうだっけ?」
覚えはある。
「そうだよ、いつもいつも僕がどれだけ気を使ってるか…」
さめざめと泣くふりをしやがったのでとりあえず殴る。
「うそばっかり。俺がどんだけ殴ろうが、蹴ろうがお前無視してるじゃねぇか」
「…自覚あるんじゃない」
「……………」
しまった。バレた。
「れ〜ん?」
そっぽを向いてる俺の頬を両手で挟まれ、無理矢理瞬のほうを向かさせられた。
「蓮ちゃん?いい度胸してるねv」
「ぐむんぬすい(ごめんなさい)」
頬をおもいっきり挟まれてるから、まともに声が出ない。
「まぁ許してあげる。そのかわりおいしいお茶入れてね?」
「分かった」
瞬には極力逆らわない、これは俺が長い間一緒にいて悟ったことだ。
「これってなんの茶葉?」
瞬の手から小さな紙パックを受け取り、中身を尋ねる。
「えっとねぇ、茉莉花茶(モーリーファチャ)。」
「え?何?」
「だからぁ、ジャスミンティー」
「あぁ、なら烏龍茶と同じタイミングでいいのかな。」
キッチンに立ち、水を入れたやかんをコンロにかけ、瞬から手渡されたパックを
開けると、爽やかな甘い香りが鼻を擽る。
事前に温めておいた小さなポットに茶葉を入れて、上から熱湯を注ぎ洗茶をする。
お湯を捨てた後、もう一度お湯を注ぎ、蓋を閉じた上からもお湯をかける。
用意しておいた、一人二つ、計四つの茶碗にお湯を注いで温め、ポットの中の茶葉が
開いたら円筒型の茶碗にお茶を注いで、小さなカップと一緒にお盆に乗せて、瞬
に渡す。
「はい。飲み方は知ってるだろ?」
「うん。でもあれ苦手なんだけどなぁ」
そう言いながら瞬は慣れた手つきで、円筒型の湯呑みから小さな茶碗にお茶を移
し、湯呑みに残っている香を利いた。
「…あぁ、やっぱりこの匂いだ」
俺も同じように香を利きながら瞬に尋ねる。
「何が?」
「ん〜、内緒v」
「ふ〜ん」
「……………」
「……………」
「…聞かないの?」
「聞いてほしいのか?」
「……………」
…やめろ、その目。
まるで捨て犬のような目でこちらを見てくる瞬の頬を引っ張ってやった。
「聞いてほしいんだろ?なら素直に言え。」
「…別に聞いてほしい訳じゃないもん」
「…何がその匂い?」
明らかに聞いてほしいオーラを出しながらでは何の説得力もない。
「……………」
「冷めるぞ」
黙ってる瞬に折角入れたんだから飲めと薦めた。
瞬は黙ったまま湯呑みから手を離し、茶碗のお茶を飲んだ。
「美味いな、このジャスミンティー」
「うん」
「……………」
「……………」
辛気臭い。なんなんだ、全く。
「…こないだから気になってたんだ」
ようやく話始めた瞬の話しには主語が抜けていた。
「何が」
「…蓮の匂い」
「……………」
意味が分からん。
「蓮を抱きしめた時に薫ってた匂いがなんなのか、やっと思い出したの」
下を向いたまま、ぼそぼそと聞き取りづらい声で、まるで照れてるかのように瞬
は話した。
「それがジャスミンティー?」
「うん。でも、蓮には茉莉花茶のほうが字的にあってるなって…思って…」
最後のほうは注意して聞かないと聞こえないくらい小さな声になっていった。
「…蓮?」
俺がいつまでも黙ってるからだろうか、瞬は不安そうな声で俺を呼んだ。
「何」
「…顔、真っ赤だよ?」
「…ッ!お前のせいだろ!」
俺はさらに頬がほてるのを感じた。
「…なんだよ、その顔!」
瞬はさっきまでとは打って変わってにやけた顔付きをしていた。
「…可愛い、蓮。ねぇ、今すごく蓮にキスしたい」
「…いつも勝手にするくせに」
「聞きたくなったんだもん」
多分俺の顔はさっきよりも赤いと思う。そんな顔を見られたくなくて瞬から顔を
背けた。
「蓮、こっち向いて?」
頬に手を添えられ、ゆっくりと瞬のほうを向かせられる。瞬の顔が近づくのを見
て、俺はそっと目を閉じた。
「……ん、ふ…ぁ、はぁ」
深い口づけに耐え切れず、唇の隙間から息を零した。
「蓮、可愛い」
「…ばか」
「好き、大好きだよ、蓮」
「ばか、…恥ずかしいこと言うな」
瞬は俺の耳に口を寄せ、耳に口づけながら囁いた。
「…愛してる」
しかも甘噛みのおまけつき。おれは腰の力が抜けて立てなくなった。その腰を支
えて瞬は俺を抱きしめた。
「…ほら、この匂い。これが茉莉花茶の香りだ」
「…瞬」
瞬は俺の瞳を見つめ、また囁いた。
「蓮、愛してるよ」
「…うん、俺も」
息が切れて瞬の肩に凭れ掛りながら、答える。
「俺も?何?」
「…ッ!分かってるくせに!」
「分からないよ?ちゃんと蓮の口から言って?」
普段ならここで蹴飛ばしてるとこだけど、今日の気分は違った。
瞬の目を見つめ、小さな声で囁いた。
「…瞬、俺も愛してるよ」
目を丸くしてる瞬に、さらに自らキスをした。
…おいしいお茶のお礼代わりだ。
2006/12/19
甘...。いちゃいちゃしてます。珍しいです。
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