指きり


♪ゆ〜びき〜りげ〜んま〜んは〜りせんぼんの〜ます♪


『もともと指切りとは、その名の通り約束事を交わした際に指を切って渡したものを言う。
時は遡って江戸時代。
遊女が本意にしている侍に、自分の心は永久に変わらない証として、小指を切ってその侍に渡したのが始まりらしい。
ただでさえ、約束の証として小指を落としているのに、破ればさらにペナルティーとして針を千本も飲まされる。指切り、つまり約束には命を賭けていた、ということだろうか・・・。』




「れ〜ん?」
「うわぁぁぁぁ!!!!!」

いきなり瞬に肩を叩かれた蓮は、驚きのあまりソファーから転げ落ちた。

「・・・ちょっと、そこまで驚くことないんじゃない?失礼だよ」
「あ・・・瞬か。あぁびっくりした」
「また怖い本読んでたんでしょ。今度はどんな本?」

ソファーに座りなおした蓮に、床に落ちた本を手渡しながら尋ねる。そして蓮の横に腰掛けた。

「ん?あぁ、『約束に対するペナルティーの重さについて』」
「・・・何、それ。また変なもの見つけてきたね。どこで見つけてくるのさ、そんな変な本」
「そのへん」

蓮は誰も読まないような、普通、埃を被ってるようなおかしな本を見つけてくるのが得意だ。そういう本は意外とおもしろいのを知っているのだ。蓮曰く、呼ばれるらしい。

「で?どんな内容なの?」
「約束はするだけで重くて、破ると死ぬ、みたいな話」
「? それじゃわからないよ?」

瞬も蓮がおもしろい本を見つけるのが得意なのを知っているから、いつもこうして内容を聞く。が、蓮は内容をまとめるのが得意ではないのか、たまに要領を得ないまとめかたをする。

「ん〜、指切りの語源と由来について、かな?」
「語源と由来って一緒でしょ」

くすくす笑いながら蓮の手を握る。

「…微妙に違う」

蓮は瞬の手を振り払い、多少ムキになりながら呟いた。

「ふ〜ん。ね。指きりしよっか?」

突然、そんなことを切り出す。
瞬は単に蓮に触れたいだけだ。そんなこと蓮にも分かっている。だって、蓮も一緒だから。二人ともただ触れたいだけ。お互いに触れられればそれで満足する。
でも、蓮は素直じゃないから。
なにか理由でもつけないと照れてそっぽを向いてしまう。
瞬はそんなこと、疾うの昔から心得ている。

「...何を約束するんだ」

案の定、蓮は指を差し出した。

「そうだねぇ。じゃあこうしよっか。お互いに相手に約束を差し出す。で、それを守ると誓う、っていうのはどう?」
「ん。いいよ」

二人は小指を絡ませた。

「まずは僕からね。」

瞬は蓮に顔を近づけ瞳を見ながら囁いた。

「蓮、僕以外見ないで。僕以外の人、好きになんてならないで。絶対僕から離れないで」

それは戯れから生じた約束には似つかわしくないほどに真剣な声だった。

「...ばか、当たり前だろ。お前以外見えなくさせてるのは瞬だろう」

瞬の額に自分の額を押し当て、蓮は呟いた。
その返答に瞬は笑む。

「じゃあ、次は蓮ね」

瞬がそう言うと、蓮はしばらく考え込んだ。

「そんな悩まなくても」

遊びなのに。そんなことを心の片隅で思う。
自分自身、遊びとは言えない、本気で誓って欲しい約束を提示した。
蓮もそうなのだろう。恐らく真剣に、誓って欲しいことを考えている。

「...死ぬな」
「え?」

一瞬聞き取れなかった。

「死ぬな、俺より先に。俺を置いて一人で逝くな。俺を一人にだけは、するな。」
「.......。」
「一人は...嫌だ」

蓮の願い。蓮の想い。前から知ってる、そんなこと。

「...分かった。一人になんてしないよ。蓮に悲しい思いなんてさせない。絶対」

お互いに知っている、それぞれの願い。
そして、それは必ずしも誓える類のものではないことも知っている。
それでも願わずには、祈らずにはいられない。
互いに愛し合っているから、想いあっているから。


二人は、小指を絡ませながら誓いの口付けを交わした。

『ゆ〜びき〜りげ〜んまん、うそついたらはりせんぼんの〜ます、ゆ〜びきった』




2007/3/8
あれ、ほのぼのじゃない...
*注 作中に出てくる本や話は作者の作り話です。実在するとは限りませんのでご注意を。    仮に実在しても、それはこの話とは全く関係ありません。

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