昨日の夜中、音が替わったのには気がついていた。
まるでそれは心の闇を覆い隠すように…
光り
「おはよう、仁兄」
朝、思いの外早く目が覚めた俺は階下にいる仁兄に声をかけた。
「おはよう、蓮ちゃん。今日は随分早起きだね」
仁兄は盛りつけた卵焼きを机に置いた。
「仁兄…ちゃん付けはやめてくれって」
子供のころから毎朝行われてる、既に挨拶の一部になってしまった会話を交わし
、俺は席に座った。
「え〜、蓮ちゃんは蓮ちゃんだもん。もう今更無理だよ。ほら、瞬君連れて来て
。もうご飯だから」
「分かった」
二階に上がって自分の部屋を通り過ぎ、瞬の寝室のドアをノックした。
「しゅ〜ん!起きろ〜!」
だが、その部屋には瞬の姿はなかった。
「ん?起きてるのか。」
寝室の中のドアを開けて瞬の部屋に入った。
でも、その部屋にも瞬はいなかった。
どこ行ったんだ。
「瞬?どこだ〜ッぅわ!」
「蓮〜、おはよう」
いきなり後ろから飛び付かれて体勢を崩しそうになった俺を、瞬が抱き留める。
「…おはよう、いきなり飛び付くな。びっくりするだろ」
「それが目的だし」
ぬけぬけと言うな。
「仁兄がご飯だって」
こいつにいちいち付き合ってたらこっちが持たない。
「了解。その前に朝の挨拶は?」
「しただろ」
「してないよ、今日はまだ」
そう言うと瞬は、その綺麗な顔を近づけてきた。
「ッだ〜〜!やめろ!」
俺は瞬の顔を避けながら押し退ける。
「やだ」
どちらかというと瞬のほうが背が高いし力も強い。つまり俺がどんなに抵抗して
もあまり意味がない、ということだ。
「…ッん、ふ…」
努力もむなしく、俺は呆気なく唇を奪われた。
「おはよう」
瞬はそれはもう朝から眩しい笑顔を俺に見せた。
「…おはよう」
紅くなった顔を隠すように背けた。
「ほら、ご飯出来てるから。仁兄怒るぞ」
既に着替え終わってる瞬をせき立て俺達はリビングに向かう。
仁兄は作った食事が1番おいしい時に食べてもらうのが好きで、冷めたり、食べなかったりすると怒る。暴れたりはしないが静かに無視する。
そうなるとしばらく食事抜きになってしまうのだ。
それがどんなに辛いことか俺達は二人とも経験済みだ。
「それは困るね、急ごう」
誰のせいだ。
なんとか仁兄を怒らす前に食卓に着いた俺たちは、朝食を摂り、それぞれ学校へ行く支度を済ませた。
俺たちは昔から双子であることでトラブルに巻き込まれてきた。
だから、今は別々の高校へ通っている。
まぁ、理由はそれだけではなくて、単に瞬の通う高校レベルに俺がついていけない、というのもある。
瞬曰く、そんなに難しくない、蓮もついていける、らしい。
でも俺は、そんなギリギリの成績は取りたくないのだ。
「う〜、もう学校行く時間か、蓮と離れたくない〜!」
ただ、その代わり学校に行く前にこうして俺に抱き付き、(瞬:栄養補給☆)甘えてくるが。
「はいはい。さぁ行くぞ」
そんな瞬を振り払って、玄関へ向かう。
「仁兄、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。あ、瞬君!課題忘れてる!」
「あ、ありがとう、仁兄。行ってきます。」
「行ってらっしゃい、二人とも気をつけてね」
ガチャ
ドアを開けたそこは一面の銀世界だった。
「うわぁ〜、積もっちゃったか。二人とも、傘持って行ってね」
「うん、...蓮?」
「.......」
「蓮?」
「...え?あっ!ごめ...何?」
ふと気が付くと瞬の顔が間近にあってびっくりした。
「何って...、はい、傘」
「あ、ありがとう」
「ん、じゃ、行こうか。行ってきます」
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
まだ、誰も通っていないらしい真新しい雪の上に、二人分の足跡をつけながら駅に向かう。
「この雪、もう少ししたらきっとぐちょぐちょになるんだろうな」
なんとなく切なくなって呟いた。
「うん、そうだね」
瞬も同じ気持ちらしく、誰もいないのをいいことに二人で手を繋いで駅前の大通りまで行くことにした。
こんなにも雪が降り積もることは、この地域では少ない。せいぜい年に一回か二回。
「...雨じゃなくてよかった」
「...そうだね」
雨嫌いの俺は、何故か雪は好きなのだ。
葉の落ちた、桜の木に付いた雪を払ってやりながら言う。
でも、寒いのは苦手だ。
「寒い」
「はいはい、ん、手」
ただそれだけで俺が何を求めてるか理解してくれる瞬。
差し出された手を握ると、瞬はそれを俺の手ごと自分のポケットにしまった。
それだけで手がじんわりと温もってくる。
そうして二人で無言で大通りまで歩き続け、駅の前に出る前に手を離し、そこでそれぞぞれ学校に向かうほうへと別れる。
瞬は電車へ、俺は学校へ徒歩で。
「今日は僕、課題あるからかなり遅くなると思う」
「あぁ、なら先に帰ってるよ」
連絡事項を伝達し、確認漏れをチェックしておく。
「課題持ったか」
「うん、蓮こそ、今日体育だよね、体操服は?」
「入ってるよ」
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
瞬の来る電車に合わせて別れ、俺も学校へ向かう。
雪...か。ほんと雨じゃなくてよかった。
昨日の夜に音が変わったのには気が付いてたけど、雪のまま降り続いていたんだ。
この雪のように俺の心のベールもそのうち取り払われるのだろうか...。
そこには雪解けの春のように、穏やかなものが待っているのだろうか。
俺の心の雨も雪に変わり、そして春になればいい。
2006/11/25
暗い...
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